デジタル断絶の時代
グーグル、ウイキペディア、ブログ、2ちゃんねる、ミクシイ、ユーチューブなど、インターネットの世界の情報伝達手段は、どんどん広がる一方だ。

私は最近、ドイツに関する本を日本の出版社から出したのだが、400字詰めで約300枚に相当する原稿と、30枚の写真を、メールで一瞬にして東京の編集者に送ることができた。

私が1991年にドイツで最初に本を書いた時には、ワープロで打った原稿を保存したフロッピー・ディスクを郵便で送ったものだが、隔世の感がある。

特に、私のように外国に住んでいる人間にとっては、地理的な距離を無力化するインターネットは、強力な武器である。

ルフトハンザなど、主要航空会社では、旅行代理店を通さないでインターネットで直接切符を買った方が安い。

また、もうすぐ搭乗券も自宅でプリントアウトすることができるようになる。

ドイツ鉄道でも、インターネットを通じて予約して、特定のページを印刷すれば、それが切符として通用する。

私たちもヨーロッパで旅行する時、以前は旅行代理店を通じて、ホテルなどを予約していたが、今はインターネットだけである。

トスカナ地方やシチリア島の民宿も、自宅から簡単に予約できる。

ヨーロッパで保険を買いたいと思うときにも、インターネットで各社の商品内容や値段を比べるのは、消費者にとってごく当たり前のことになっている。

これからインターネットの世界は、さらに急速に拡大していくに違いない。

私が気にしているのは、インターネットの世界に接していない人々が、情報社会で取り残されていく危険である。たとえば、第三世界に住んでいる人々の間では、インターネットを全く使っていない人の比率が高い。

彼らと、日米欧の市民の間では、入手できる情報に関して、ギャップが広がる一方である。日本に住んでいる知人でも、インターネットを使っていない人に情報を送ろうとすると、やはり少し遅れが生じてしまう。

このような「デジタル断絶」は、21世紀の大きな問題の一つになると思う。

これからのジャーナリストや物書きにとっては、いかにしてインターネットに載っていない情報や、人々の生の声、隠された事実を取り上げるかが、大きな課題となるだろう。

さらに、語学さえできれば、アラブ語や韓国語のウエブサイトも、日本の自宅で読むことができ、情報を収集できるのだから、外国語を習得することの重要性が一段と高まると思うが、どうだろうか。

(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)筆者ホームページ http://www.tkumagai.de

保険毎日新聞 2006年9月